或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  96.わが息子へ ~結婚に際しての父親よりの手紙~

私には、父親としての点数はつけられない。なぜなら、世間で言う父親らしいことをほとんどした記憶がないからである。女房に言わせれば、幼児の頃、子供3 人をお風呂に入れたのは2回しかないらしいし、運動会の思い出もない。キャッチボールの相手は常に母親で、お前が好きだったサッカーの相手も私ではなかっ た。わずかに親らしいと自慢できるのは、オープン間もないディズニーランドへ家族5人で行ったことくらいである。
そういう意味からすると、私は父親失格である。忙しかったといえば忙しかったが、子供と過ごす時間くらいは、作ろうと思えば作れたと今では思う。そのこと に関しては反省しているし、この場を借りて謝っておく。お前が生まれた頃は岡山の営業所に勤務していて、長女などは私のことを「岡山のお父さん」と呼んで いたらしい。それくらい家には帰らなかったし、仕事優先であったことは確かである。
悪いが、私には家庭に関わっている暇はなかったのである。仕事もそうであるが、私にはどうしても倒さなければならない「敵」「強烈なライバル」達がいたの だ。それは、言うまでもなく私の父親、すなわちお前の祖父であり、彼を取り巻く個性豊かな彼の番頭達である。彼らに勝ち、彼らを倒さなければ、私の「位 置」は確保できないし、「私の将来」はみすぼらしいものになると感じたのである。是が非でも実績を積み重ね、それを彼らに見せつけなければ「ああ、アレは 社長の息子やから」と、甘く見られると思ったのである。だから、私は全てに「がむしゃら」であった。それはわかってほしいし、認めて欲しい。
しかし、お前は違う。私を倒す必要もないし、お前の周りには心優しい先輩や同僚達がいる。お前は決して私の真似などしなくていいし、私の代わりにはなれな いのだから、お前はお前の思う道を進めばいい。私が第一線にいる間は、できる限りの応援はする。しかし、それは所詮応援でしかあり得ない。わかっていると 思うが、最終的にはお前自身で考え、実践しなければならない。
残念ながら、お前には浮かれている時間も余裕もない。焦る必要はないが、のんびりもしておられない。何せ、かつて誰もが経験したことのない、経済は「デフ レ」、市場は「ストック」、金融は「円高」という難しい現代だから。祖父や私の時代よりも、はるかに混迷の時代である。我々の時代は、とにかく一生懸命頑 張れば何とかなった時代だった。でも、今は違う。気の毒だが、それはお前の宿命である。
最後に、どうか、あらゆる「観る目」を養ってほしい。そして、元気に明るく、前向きに&しつこく、いきましょう。