或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  81. お遍路日記XXⅧ

第八十五番『五剣山八栗寺(ごけんざんやくりじ)』まではタクシーで十五分足らずの道程である。正確には麓までと言うべきであるが、そこからケーブルに乗 り山頂駅まで五分ほどで着く。五剣山は標高375mの山で、壇ノ浦を挟んで屋島と向かい合っている。開祖は弘法大師で、ご本尊は「聖観世音菩薩」である。 本堂の左手前には聖天堂があり、そこには「歓喜天」が祀られている。高さ15m余りの黄金像だそうだが、秘仏であるが故に我々は見ることはできない。ま た、多宝塔はカラフルで美しい。
第八十六番『補陀落山志度寺(ふだらくざんしとじ)』は潮の香りが漂う、瀬戸内海の海辺近くに立つ古刹である。威風堂々とした本堂と仁王門。本堂の左手に は昭和50年に建立された朱塗りの五重塔があり、比較的新しい建物だが不思議によく溶け込んでいる。ご本尊は「十一面観音」だが、その脇仏である「不動明 王」「毘沙門天」は平安初期の作とされており、国の重要文化財にもなっている。また志度寺には海女の悲しい物語が伝えられており、その供養のため「海女の 墓」が20基も残っている。
第八十七番『補陀落山長尾寺(ふだらくざんながおじ)』のどっしりとした風格のある山門は鐘楼門で、門の中に釣鐘が下がっており、広々とした境内には樹齢 800年の楠や枝振りのよい松がある。毎年1月7日には三本の宝木を若者達が奪い合う『福奪い』という行事があり、同じ日には『大鏡力餅』の競技も行わ れ、広くテレビなどでも報じられて人気を博している。また、長尾寺は静御前が義経と吉野の山で別れてから各地をさまよった後、得度を行い、その余生を送っ たと伝えられているお寺でもある。
結願の寺、第八十八番札所『医王山大窪寺(いおうざんおおくぼじ)』まではタクシーで小一時間の距離である。門前には多くの土産物屋や食堂が並んでおり、 お遍路の姿でにぎわっている。その表情はみな晴れやかで輝いている。言葉は要らない。ここまでやり遂げたものにしかわからない共通の言語があり、それで充 分会話になる。私は本堂と大師堂で、様々な思いを込め般若心経と光明真言を唱えた。納経帖に記帳をしてもらうと、満足感とともに寂しさもよぎった。いよい よ『同行二人』の旅が終わる。札堂に私とこれまで伴に遍路をしてきた『金剛杖』を奉納した。そこでもう一度般若心経と光明真言を唱えた。不思議と涙はな かった。
こうして私の第一回のお遍路の旅は終わった。2000年11月18日のことである。今から8年前になる。当時は52歳だった。今2008年7月7日。丁度 昨日60歳の還暦を迎えた。あらゆるものから解放された4年後、私は再びお遍路の旅に出る。そのときはもちろん歩き遍路である。もう胸の鼓動が聞こえる。