或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  72. 『流星ワゴン』という小説

『流星ワゴン』という小説を読んだ。一気に読んだ。最近一息に本を読む、という習慣が薄れていたにも関わらずである。テレビで知ったのだと思うが、正式に 本の名前も作者も知らずに本屋へ行って「何とかワゴンだったと思うのですが」と言うと、本屋の店員は「流星ワゴンですね。現在売切れです。ご注文なさいま すか?でもなぜそんなにこの本が売れるのですか?」と逆に質問されたのである。
主人公は今サイテイ、サイアクの状態に置かれている。一人息子は私立の中学受験に失敗し、地元の公立校に入学したがいじめに遭い、もう3ヶ月以上も登校し ていない。そして家庭内暴力を繰り返し、ソファーはカッターナイフで切り刻まれたままで放置されている。妻はテレクラで知り合った身も知らぬ男性と連日の ように逢瀬を重ね、時々は朝まで帰らない日もある。主人公は現在38歳。まさか自分が?と思っていたが会社からリストラされ、職を失っている。故郷の父親 とは物心ついた時分から、考え方や生き方が大々嫌いで殆ど会話らしい会話をしたことがない。父親は土建業から身を起こし貸金業を始め、多くの企業を経営し ている地元の名士である。主人公があとを継がなかったので妹婿が継いでいる。しかし、その父親も今は末期癌で余命いくばくもない。今日は父親を見舞っての 帰りである。父親が心配で見舞ったのではなく、行けば交通費として5万円貰えるから行くのである。家に帰りたくない、このまま死んでもいいや、生きなけれ ばならない理由もないし、と思いながら最終電車で自宅の駅までたどり着き、駅前のベンチに腰を下ろすと、そこへ赤い流星の様なワゴンが止まり、その中から 親子が現れ「おじさん、乗らない?」と声がかかり、誘われるままに主人公はそのワゴンに乗る。
そこからこの物語が始まるのであるが、ワゴンが所謂「タイムマシン」であり、主人公は様々な過去に連れて行かれ、その全ての場面が人生に於ける重要な岐路 を示しており、次から次へと主人公を追い詰めていく。中でも自分と同じ38歳の父親が現れ、色々と織りなすシーンは涙なしには語ることは出来ない。この物 語には三組の親子が登場する。ひとつは主人公の親子、主人公とその父親、ワゴンに乗っている親子(実は5年前に交通事故でなくなっている幽霊)。
人生は後悔の連続である。と同時に捨てたものでもない。主人公は最後に部屋の掃除を始める。私も一歩を踏み出すことにした。この本こそ私にとって「流星ワゴン」そのものであった。