或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  63. お遍路日記ⅩⅨ

第五十三番札所『須賀山円明寺(すがさんえんみょうじ)』までは10分足らずで着いた。円明寺は聖武天皇の勅願により行基が開基したと伝えられている。本 尊は行基自身が刻んだ阿弥陀如来である。また円明寺には四国最古の銅版の納経札があり、大師堂の左横にはマリア像がひっそりと眠っており、キリシタン禁制 の江戸時代に隠れキリシタンの信仰を黙認していたようである。真言密教の広さと深さを感じる光景である。
雨は止むことなく降り続いている。今日は少し贅沢をして"カドヤ別荘"と云う温泉旅館を予約しておいた。身体の疲れを取り精神的にもリラックスしないと、 とてもこの緊張感のままでは最後まで耐えられないと思ったからである。
旅館に着くとすぐ入浴をした。泊り客もあまりいないせいか、広い大浴場はがらんとしていた。手足を大きく伸ばし、パンパンに張った太腿の筋肉を揉みほぐし た。風呂から上がるとしばらくして食事が出された。その料理の品々は全く覚えていない。視覚的には美味しそうであったが、食欲がなくほとんど手をつけるこ とが出来なかった。フロントに電話してマッサージをお願いすることにした。私自身はあまりマッサージは好きではないのだが、この体調を何とかしないと到底 明日は体力がもたないと思ったからである。
マッサージ師は「肉体的にもひどい状態だが内臓も相当弱っている。このマッサージの後温泉で40分位半身浴をすればかなり回復するだろう」とアドバイスを してくれた。遍路旅の最初の日、私の隣で歩き遍路のおじさん達が「歩く度に内臓にずしずし響いて吐き気がする、食欲もなくて困る」と言っていたことを思い 出した。
痛いだけのマッサージも終わり、彼の指示に従い再び大浴場へ行き半身浴をした。10分もすると全身から汗が、それも粘っこい汗が噴き出してきた。とても 40分も入っていることは出来ず上がった。恒例の夜の宿題である明日の分だけ納札に自分の住所と名前を書いた。
寝ようと思い布団の中に入ったが、全身の血がカッカカッカとしてとても寝付ける状態ではなかった。瞼と肉体と脳の3つがそれぞれバラバラに作動し、一段と 神経だけが冴えてくる。人間極限状態まで疲れると眠れない、眠るのにも体力が要る、ことを身をもって実感した。
結局私は朝まで一睡もできなかった。私は迷った。このまま続けるべきか、ここは一旦諦め中止するべきか、私はもっとも信頼すべき人に相談するべく、静かに携帯のボタンを押した・・・・・