或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  50. 手紙

私はあなたに手紙を書くのは初めてですね。そしてこれが最後の手紙になりました。
私はこれまであなたにどれほど癒され勇気付けられたことでしょう。
あなたとの出会いは、今から7年5ヶ月前でしたね、当時岡山に住んでいた私の娘があなたを連れて帰ってきました。私はそれまであなた方が大嫌いでした。で も三日で好きになり、1週間で夢中になりました。娘があなたを連れて帰るとき、私は娘を脅迫しました。「娘が住んでいるアパートの大家にあなたと娘が一緒 に暮らしている、ルール違反だと」密告してやると。それから間もなく正式にあなたは我家に住むようになり、私達の子供、いえ時にはそれ以上に生活を重ねて きました。
私たちは一歩も外へ出さないようあなたを過保護に育てました。でもあなたはそれに甘えることなく自立して大きくなっていきました。夜中にあなたがいなくな り、半ベソをかきながら私たちは3時間近く探し回りました。疲れ果てて帰ってみると「何かあったの」というような顔をして悠然と椅子の上にいましたね、私 は思わず抱きしめて気がついてみると本当に涙が流れていました。私とはあまり一緒に寝てはくれず妻とはよく寝て、私の嫉妬をかいましたね。それでも気が向 けば私の寝室にも入ってきて、テレビの上に本当に身軽に飛び乗って、独特のしぐさ「前足を舌でなめながら顔を洗う」をしていましたね。あなたが入れるくら いにいつも戸をあけていました。その習慣は今も私たちから消えていません。私の部屋にある高さ2メートル以上もある洋服ダンスに駆け登り、よく私めがけて 飛び降りましたね、私たちがかまい過ぎるとうざったくなったのか、いつの間にかクローゼットの和ダンスの上に隠れ、息を潜めていました。時々休みの日など 朝寝をむさぼっていると、しびれを切らしてかいたずらかは分かりませんが、あのざらついた舌で、私の髪や頬を舐め、起こしに来ました。捕まえようとすると するりと逃げ、あっという間に階段を下っていきました。ある時、2階のベランダへ出るサッシの戸が少し開いていたのか、それを器用にあけ、ベランダの手す りの間から屋根にいたこともありました。高いところが苦手な私ですが、屋根の軒先まで行ってあなたを無事保護し、その時正気に戻り足が震えました。網戸は 体当たりをして外してしまうので、全てガムテープで外からと内からとしっかり貼っていました。もちろん、壁のクロスはキズだらけ、障子も自分の背の届くと ころから下はきっちり穴が開いていました。


つづく