或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  42. お遍路日記X

フロントガラスに降り出した雨は、やがて肉眼でもはっきり見えるようになった。二十五番札所『宝珠山津照寺(ほうしゅざんしんしょうじ)』から、第二十六 番札所『竜頭山金剛頂寺(りゅうとうざんこんごうちょうじ)』までは4キロそこそこの道程である。西寺と呼ばれている金剛頂寺は弘法大師が修行した霊地 で、本堂の薬師如来は大師自らが刻んだもので、完成すると同時に薬師如来が自分で歩き扉を開き、そのまま鎮座したと伝えられている。重厚なつくりの仁王門 をくぐるとそこは別世界。澄みきった空気の中で私は身も心も洗われていく。納札を札所に納め、灯明と線香をあげる。何年か前に福山(広島)のお寺で買い求 めた数珠を手にかけ、経本をずた袋の中から取り出し般若心経を唱えた。私の読経の声も遍路達のざわめきも深い森の中に吸い込まれていき静けさだけが残って いる。
二十六番札所から二十七番『竹林山神峯寺(ちくりんざんこうのみねじ)』までは30キロ程だが、つづれ折のような山道で90分以上の時間を要した。山の麓 で大型バスから小型のボックスカーに乗り換えていた団体を目にし、何の為にしているのか不思議だったが私自身何度も対向車に道を譲る羽目になりその理由が 理解できた。
神峯寺は標高630メートルの山頂近くに位置しており、行基が開基し本尊は十一面観音である。ようやく駐車場に辿り着いたがそこからも大変だった。最初は 緩やかな階段と思えたが、四十五度の急勾配の階段が続き、さすがに土佐の関所と言われるだけの事はある。修行の道場に入ったと云う実感が湧いてきた。境内 から更に百五十段の石段を登ったところに本堂と大師堂がある。あいにく雨模様で頂上からの景色は良く見渡せなかったが、手入れの行き届いた庭園は見事で、 それまでの疲れを一気に忘れさせてくれる。
神峯寺から次の札所第二十八番『法界山大日寺(ほうかいざんだいにちじ)』までは車で1時間程である。質素な山門をくぐりぬけ、本堂までの境内は敷石が続 き、廻りは白い玉砂利が敷き詰められており、参道の脇には無数の石仏が並んでいる。すっきりした素朴なお寺である。御本尊は大日如来、行基が開山したと伝 えられている。
雨が本降りになってきた。右手に金剛杖、左手に傘、心なしか金剛杖に付けている鈴の音が湿りがちに聞こえる。
私は今独り、土佐の高知にいる…