或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  17. 初めて○○を食べた日~ピザの巻~

高校時代に仲間7人で『ねんりんの会』と云うグループを作り、革新的で文化の匂いのする一寸したエリート集団を気取っていた。
一人ずつ紹介すると、沖田は3度目の海外生活で今はアメリカに居て、或る自動車メーカーの合弁会社の社長として、文字通り悪戦苦闘を強いられている。要領 が良かった久田はあいかわらずで、小市民生活を楽しんでいる。旅行好きだった秋山は旅行会社に就職し、リストラの総責任者としてここ2~3年眠られぬ夜が 続いているが、この前会った時は今度は自分の番かもしれないと嘆いていた。手先が器用だった安田は歯の技工師をしているが、その競争も厳しく、忙しい割に 儲からないらしい。地元にUターンして来た根本は、未だ青臭い青年のままで、外国かぶれで訳のわからないブランド物を時々見せに来る。最も仲が良くて しょっちゅう我が家にも泊まった塩谷は、本当に信じられない事だが、駅のプラットホームをほろ酔い気分で歩いていて、特急電車に跳ねられ亡くなってしまっ た。
毎年お盆にみんなでお参りしおしゃべりするのであるが、このグループで私だけが大学受験に失敗し、1年間の浪人生活を経て無事入学するのを他の6人が待っ ていてくれて、その記念に秋山が九州旅行を企画した。その時の楽しそうな顔で塩谷はいつも登場してくる。
その旅行はいかに安くあげるかが最も重要な課題の一つであったので、現在はあるかどうか知らないが、当時若者の旅行と云えばほとんどがユースホステルを利 用したものであった。ユースホステルでの最大の楽しみは、夕食の後の宿泊者全員でのゲームとかキャンプファイヤーであった。その場で見知らぬ者同士が、特 に男女が知り合うきっかけを作ることにあった。
私も例に洩れず2人連れの女子大生と知り合い、そのうちの一人が東京の大学に通っていて、帰ったら会おうと云う事になったのである。
初めてのデートの日、待ち合わせ場所はもちろん『忠犬ハチ公』の前である。私は意図して定刻に行くと彼女はもう来ていた。
「どうする?」
「ボ、ボクは東京はこの4月に来たばかりなので何もわかりません、おまかせします」
「わかったわ。じゃ私にまかせてくれる。ジャズはきらい?」
「きらいじゃありません」
好きも嫌いもない、今まで一度も聞いた事がなかった。生まれて初めてジャズの生演奏を聴いた。それから食事に行ったのであるが、そこで彼女は『ピザ』を オーダーしたのである。私は洋風お好み焼きか、と思いながら食べた事だけは覚えている。
青春のプロローグだった。