或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第三部 ~すべてはお客様のために~


第一章 記念植樹

今日は2003年5月1日だ。恒例の月例報告会の日でもある。私はサンホーム兵庫の社員全員を前にして、今から行おうとしている記念植樹について話をし た。《当社は今期第24期は残念ながら赤字決算になってしまいました。この責任の全ては私にあります。大変申し訳なく思っております。その原因は色々とあ るかとは思いますが、一言で言えば私の見通しの甘さに尽きます。私は事業の経営を始めてこの方赤字決算を組んだことがありません。今でもまだ当社が赤字に なったことが信じられないくらいです。あれほど皆さんは夜も昼もなく一生懸命頑張ってくれました。その結果が赤字では本当に申し訳ない気持ちで一杯です。 心を入れ替えて新たな気持ちで再出発を期したいと思っています。その気持ちを事業に携わる間一生忘れないために、今から赤字記念植樹を行います。》
植樹した木はしだれ桜だった。決算が3月であり、丁度その頃に咲く桜の花を見て、自分自身を戒める為と二度と赤字を出さないという決意の表れだった。それ からの1年は公の場では、特にサンホームの会合や毎月のサンホームの役員会の席上は、誰にも口に出しては言わなかったが、ある種針の筵だった。これも試練 と思い本当の気持ちを言えば愚痴の一つや二つも溢したかったが、幸いにも私には愚痴を聞いて貰える人は誰もいなかった。
赤字の額は2,700万だった。75億程売上げして、たったそれくらいの赤字何とかならなかったのか、と読者は思われるだろうが、どうにもならなかった。 前期比では15%ほど売上はダウンしたが、私自身は2月の段階ではまだトントンくらいか、多少利益は出ると思っていたのだから、実におめでたい話である。 わが社がなかんずく私が経営をしている企業で赤字などなるはずがないと、妙な信念があった。それは神風に近い信念だった。決算も大詰めの段階でメーカーの ある担当者が『社長無理をして黒字になさいますか?それともこのままの数字で決算なさいますか?』と言った。どちらでも社長の意に従って協力はしますとの ことで、暗に粉飾をするかどうかを私に問う言葉だった。私はその言葉で腹をくくり赤字決算を決断したのである。
その時(第24期)の弊社の株主総会の営業報告書は以下のとおりである。
 

営業報告書

平成15年5月1日に記念植樹を行いました。樹木はしだれ桜です。何の記念か?弊社赤字決算記念です。
全員で一握りずつ土を盛り、この惨めさを忘れないが為です。このしだれ桜が咲く頃に、「ああ、あの時はそうだったな」と己を戒める為に行いました。
新光グループは勿論、ネットワーク企業の中で、創立以来、只の一期も赤字決算を組んだことはありません。理由は色々あり、原因も理解しています。しかし、責任は全て私にあります。株主各位に心からお詫び申し上げます。
あえて良かった点を挙げるとすれば、単独展示場を中心とした"あめにてぃ戦略"がようやく理解されるようになり、その成果が表れ始めました。例えば、子供 の絵画展でご縁のあった方が、たまたま展示場へ行かれ、弊社のお客様になられご契約して頂く、とかです。また弊社独自のバイキング料理を手にとって食べ始 め、そのおいしさに気がつく社員も増えて参りました。これらの事を根気よく継続していけば、必ずや我々が目指している"味方を増やす"戦略が功を奏し、楽 して受注が出来る企業になれると確信いたしております。
平成15年2月10日は、弊社において忘れることの出来ない記念日になりました。その日に出来上がったのが以下に示す新しい企業理念です。
 

一、 私達は、お客様に支持され、必要とされ続けることを喜びとします。
一、 私達は、常にお客様の視点に立ち、知恵と勇気とエネルギーをもって『満足』を提供し続けます。
一、 尚、お客様とはサンホーム兵庫で既に建てていただいた方と、私と関わっていただけるすべての人です。
一、 私達は、豊かな地域環境を育むために、単にすまいとサービスを供給するだけでなく、社会福祉、ボランティア活動等を通じて、社会的責任を果たす企業であり続けます。
一、 私達は、素晴らしい人生にする為に、大きな夢を持ち続けます。
  今期の目標は『お客様満足度100%』です。言い古された言葉かもしれませんが、古くて新しい目標です。その根本的戦略思想は、"お客様重視からお客様視 点へ"です。"お客様重視"と"お客様視点"は全く異なった次元です。"すべてはお客様のために"を合言葉に、愚直に行動して参ります。その実現の為に新 たにお客様満足センター本部と特建事業部を創りました。
新企業理念を実践し続けることこそが、我々の未来の繁栄につながることを信じて、夢と勇気と情熱をもって挑戦して行きます。最終目標である『オンリーワン 企業』の確立に向けて、皆様方の絶大なるご協力とご支援を心からお願い申し上げます。

平成15年5月27日

株式会社サンホーム兵庫
代表取締役社長 北見俊介

私は情報とは集めるものではなく集まるものだと思っている。本人が真剣な問題意識をもっておれば、感性を研ぎ澄ましておれば、勝手に集まってくる。 2002年の確か8月頃だったと記憶しているが、私の手元に一本のビデオが届いた。誰が私に送ってきたかも忘れたが、それは大久保氏の講演会のビデオだっ た。彼は企業の目的は、《お客様の満足》を実現することだと言い切るのである。利益でもなければましてや売上でもなく、従業員のためでもなく、株主利益で もなく世間でもない、お客様のために何が出来るか何をするかである。しかもそれは《お客様視点》で捉えなければ何の意味もなさないと言うのである。《お客 様重視から客様視点へ》これが企業が生き残る唯一のキーワードだと言うのである。

私は何処かの歌手ではないが、ビビッと体中に電気の走るのを感じた。5回くらいそのビデオを見たであろうか、まだ過去も現在にいたるまでも大久保氏には一 度もお目にかかった事はないが、もう私の師でありいつもそばにいてアドバイスをして頂いているような感じである。2003年の2月10日の事業計画策定会 議の冒頭でそのビデオを見せ、来期の方針について熱く語った。その席上で創り上げたのが、上記の企業理念である。皮肉にもその三月期が赤字になるとは、会 議に出席していたメンバーも予測していなかっただろうし、後になって考えれば本当に全てが何か運命的に覚えられて仕方がない。私は新企業理念と共に従来の FR宣言に代わるものとして新にCS宣言なるものを掲げた。
 

CS宣言

今、市場は完全に変わった

売り手市場から買い手市場へと
我々はそれをいち早く受け止めなければならない
あるがままに受け止めるところから全てが始まるのである

企業の目的は、お客様にお客様の視点に立った満足、価値を提供しつづけることである
決して売上でも利益でもない
ましてや個人的な私利私欲などもってのほかである

その満足度合い、価値観によりお客様から利益を頂くのである
もう一度言う
お客様の満足なくして企業の存在などあり得ない
個人の存在もまた然りである

『お客様重視からお客様視点へ』
これが、二十一世紀に健康体で生き残れる唯一のキーワードである

あらゆる人間と関わり合いながら
真の住まいを創り出しながら
知恵を出し、夢を持ち続けながら
勇気を振り絞って

さあ、新たなる第一歩を踏み出そうではないか



《すべてがお客様のために》が今我々の最大のミッションである。
2年が経過し3年目に入った今も、私は勿論『満足バッチ』と称して、(お客様満足度100%宣言)と記されたワッペンを業務中は左の胸に全員が着けてい る。工事現場においては、企業理念の一つである《私達は、常にお客様の視点に経ち、知恵と勇気とエネルギーをもって『満足』を提供しつづけます》と書い て、横1m50cm縦3mくらいの懸垂幕にして掲げている。また毎月アパートと戸建住宅のお客様宅を訪問し直接取材を行い、それを記事にして掲載した情報 誌『ぱなぱな』を発行している。現場見学会やあらゆるチラシ広告類すべてに、『お客様満足度100%宣言』というキャッチフレーズを挿入するようにしてい る。細かなことだが大事だと思いかなり煩く指示している。
また一方では、従来のサービスセンターを廃止し、新にその名もずばり『お客様満足センター』とし、優秀な人材を数名投入した。その甲斐もあって、私のス ピード感覚からすれば少々物足りないが、全く違った部署に生まれ変わろうとしている。顕著な例を記すと、以前はサービスセンターの仕事はお金など戴けると いう観念が全くなかった。今はお金を戴いてこそ真の満足をお届けしたことになり、サービスとは本来そうあるべきである、という認識に変わりつつある。これ は月とすっぽん、雲泥の差である。またお客様満足センターを二つの部署、つまり従来のサービスをより充実したものにする『メンテナンス部』と、ビフォアー サービスを企画実践する部署『業務推進部』に分けている。驚くなかれ我が満足センターは、アンケートの回収率が60%を超え、満足率も92%にアップし、 有償工事が無償工事を完全に上回り、今では利益の出る部署に変身してしまった。しかし夢は大きい。我々はお客様満足度100%を目指しており、それを完全 に実現することにより『オンリーワン企業』を完成させたいと思っているからである。《あのサンホーム兵庫に任そう》《あそこなら安心だ》《本当に親切な会 社よ》《うちの子供はあの会社に入れたい》と言うような街の声を、あちらこちらで聞きたいのである。そうなることを信じて私は愚直に、企業理念の実現と、 CS宣言を実践していく決意である。
おかげで25期は5千万、26期は1億の利益を計上することが出来た。27期は2億は堅いと思っている。V字型回復とまではいかないが、なんとなく手応えを感じている昨今である。

来年も再来年もまた十年先においても、あのしだれ桜を《美しい》と感じて眺めたいものである。

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