或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第三部 ~すべてはお客様のために~


第一章 必ず一度はお会いする

人間が何かを建築する時には様々な日本古来の儀式がある。建築の前にはまず地鎮祭を行う。地鎮祭とはその土地に住む産土の神様に、今からこれこれのものを 建てますからよろしくお願いしますとお祈りするとともに、この工事の無事安全と、お施主様が益々繁栄されることを祈願するゆゆしき儀式である。先ずその土 地や建築主や施工者の禊を行う。(修祓)神様にこの土地に降りてきていただく。(降神)お供え物やお酒をささげる。(乾撰)そしていよいよ祝詞を上げ辺り を清め、鍬入れ式を行い玉串を奉奠し、神様にまた天に帰って頂くのである。(この厳かな儀式をこともあろうに、いくら一連の団地内であろうと合同で行った ある住宅メーカー「SH」がある。私から言わせていただくなら言語道断である。大きなお世話だと言われても許すわけにはいかない。)
次は上棟式である。昔は棟梁がいてどんな大きな家でも朝から全て手組で行い、それでも夕方にはちゃんと棟が上がり、棟梁自らお酒と塩でお払いをし餅まきを し、それを近所の人たちが拾ったものである。私も少年の頃は拾いに行った記憶がある。最近はそう云う光景は殆ど見られなくなった。当社では上棟祭と称し て、棟上げが終わり室内の造作が始まる前に独自の方法で行っている。実は私が考案した儀式であるが、御幣奉納したり、家の中心のボルトをあらかじめ金色の ボルトに変え少々緩めておいて、最後にお施主様にレンチで締めて頂いたり、四隅を鬼門の方角から順にお酒とお米と塩で清めて頂くのである。それから祝辞を 述べて終わると言う段取りになっている。
最後は竣工式だが、企業の社屋や工場や大型のマンションとか病院などの場合は竣工式であるが、住宅はそう云う呼称は相応しくないので、当社ではお引渡し式 と呼んでいる。先ず玄関のドアの前でテープカットを行う。これが意外と好評で、一般の人は先ずテープカットをする機会などは殆どないのが当り前で、それを 生真面目に行うことで自然と緊張感が生まれ、儀式と言う雰囲気が漂うのである。勿論白い手袋と鋏を遣い、カットされた瞬間参列者は拍手をする。次いで新し い鍵をお渡しし、その鍵を使って玄関ドアを開けていただき室内に入る。その工事を担当した管理者が、着工から完成に至るまでのあらましの工程を報告し、更 に設備品の取り扱いについて説明する。それからお引渡し書に署名捺印を頂き保証書をお渡しする。最後に祝辞を述べお酒で乾杯をして終わる。またお客様から 感謝状を頂く。(今では9割近くのお客様から頂いている)
それらの儀式を業界では祭祀と呼んでいるが、当社からの主な出席者は、営業担当、工事管理者、担当の設計者、役員(最低部長)であり、上棟祭は担当の大 工、お引渡しにはその後のアフターサービスを担当する満足センターの社員らである。それらのスケジュール一切を秘書室で管理している。その日程と私のスケ ジュールを見計らって、様々な祭祀に私は出席をする。しかし正直言って私のスケジュールはそんなに空いてはいない。せいぜい出席できるのは1~2割程度で ある。
俄然私のスケジュールは11月の半ばから1月半ばまで超過密スケジュールになってくる。と言うのはそれらの祭祀に私が出席できなかった、全てのお客様のお 宅を訪問するからである。年内は一般の戸建て住宅のお客様を、年が開けて1月はアパートのオーナー様や、最近増えてきた福祉関連の施設を建てて頂いたお客 様のお宅を営業マンと一緒に、私の友達が龍野で造っている醤油を持って、アポのうえ一軒一軒お伺いするのである。大体件数にして250件くらいは訪問す る。朝は9時から夜は8時9時頃まで及ぶこともある。時々はお叱りを受けるが、殆どの方には喜んで頂いている。
またこれは多少本筋からはなれるが、私はご契約をして頂いたお客様全員に、字は下手だが自筆でお礼状を差し上げている。2年前からは新光建設の契約分も書 いているので、多い時はは1ヶ月70件くらいになる。1件につき便箋2枚だから、140枚くらい書くことになる。もうそうなれば『行』のようなものであ る。だから正確に言えば、全てのお客様に2度会っていることになる。1度目はお手紙で、2度目は実際にお目にかかって。
勿論狙いはCSであるが、もう一つ別の狙いがある。営業マンのモチベーションを高めるのがそれである。日頃営業マンと2人きりで話す機会など殆どない。車 で移動中にいろんなことを話す。家族のこと、上司のこと、他部門のこと、今の仕事のこと、何故もっと成績が上がらないかとか、自分勝手でもいいから会社の 方針でおかしい所はないかとか、等々である。聞き上手な私には時々本音を言ってくれる者もいる。それらの裏付けを取って来期の方針や人事に役立てることも ある。私の貴重な情報源である。
私の仕事は企業の目的を具現化し、社会に貢献するもの一つだが、今一つは業務を通じて社員に達成感という喜びを味あわせ、少々オーバーな言い方をすれば、 人生において生きがいを見出して欲しいのである。人間は『生きた証』を残すために生まれたと思っている。私も勿論残したいと願っている。

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