或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第二部 ~豊かさと自由を求めて~


第二章 受注のいらない会社

新光グループの中に新光住宅産業という会社がある。以前私の御目付け役だった吉田さんが創設し、長い間社長をしていて、特別に彼の思い入れが強い会社であ る。今は私が名前だけの社長をしている。実質の経営は色々とあって山脇(どこかの章で詳しく述べるが、前著でも時々出場した人物)が常務として、経営に当 たっている。
山脇の前は多少空白はあったが、和田という男が代表権のある専務として新光住宅産業を経営していた。その和田の話である。
彼は新光住宅産業の専務になるまでは、新光建設の常務としてアパートを中心に大型物件の販売をしていた。新光建設に入社した経緯は、彼が地元の金融機関の 外回りをしていて、新光建設の担当者として殆ど毎日のように事務所を訪れていた。その彼の仕事ぶりや態度を見て、当時総務全般を担当していた木下常務と私 で彼を口説き、金融機関から引き抜いたのである。
彼は木下常務の引き立てもあったが、めきめき頭角をあらわし、3~4年で課長になり経理全般を任されるようになった。木下常務は自ら作った退職規定に基づ き、本当にきれいに退かれたが、その時彼は取締役管理部長だった。また彼は、新光建設以外のグループ会社全ての監査役もしていた。私の妹婿である高橋君が 新光建設にきてから、少しずつ歯車が狂い始めたように私は思っている。どういう経緯で彼が管理から営業へ転じていったかは知らないが、多分彼独特の皮肉で 営業の不甲斐なさを突いた所、「それほど言うのならお前やってみろ」となり、「やります」という事ではなかったろうかと、推測できる。私は彼には彼が自負 するほど営業力はないと思っている。むしろ向いていないと思う。何故なら、はっきり言わせてもらうと、あのみすぼらしい人間力では住まいに関する業務は無 理である。彼は毎晩、365日欠かさず飲みに行く、という話はあちらこちらで聞くが、本を読んだり、映画を観たり、自己開発のために研修に行ったという話 は聞いたことがない。あの人は何を考えているか判らない、自分の自慢話ばかりする、一体どういう人?という質問はされるが、暖かくていい人ですね、などと いう声は一度も聞いたことがない。
私は彼に新光グループから去ってもらう決断をした。早速吉田相談役(前社長)に私の気持ちを話した。
「吉田さんにも以前1~2度お話したと思うのですが、ええ和田君のことですが、彼には再三注意をしたのですが一向に改まりません。また姫路でアパートの契 約をして現在工事中です。見て下さい、この金の流れと仕事の発注の仕方。もう我々を誤魔化そうとしているとしか思えません。彼には此処に居てもらえないと 思うのですが、どう思われます。彼が今後食べていかれるように配慮はしてやろうと思っていますが」
吉田さんはお前に任すと言われた。新光住宅産業と云う会社は、松下電工の代理店をしていて、新光グループの住宅資材全般の供給を担っている会社で、ミッ ションも"グループの役立ち"を一番に掲げている。一方リファインと云う称号で、あくまで電工商品の拡販という目的で、富山町で増改築も行なっていた。私 はアパートは勿論のこと、新築も全て各グループに紹介をしなさい、と彼に言い続けていた。受注をしてはいけない会社なのだと、くどく言っていた。企業ミッ ションと合わないし、紹介をすることでグループからの注文も増えてくる。ギブ,ギブ,ギブアンドテイクでこの世の中は丁度だと私は思っているのだ。売上 は、上げるものではなくて、上がるものなのだ、利益は、出すものではなくて、出るものなのだ、企業経営に必要なのは、要領や頭の切れや管理や、誰でも直ぐ に手に入る薄い狭い知識よりも、優しさや思いやりの方がよほど大切だということが、いくら言っても彼は理解しようとはしなかった。一対一で話をしている時 は、真剣そうな顔をしているのだが、やることは全く反対のことを平気でするのだった。多分心の中で嘯いていたのだと思う。
和田君をサンホーム兵庫に呼んで、
「和田君、君の選ぶ道は二つに一つだ。このまま新光住宅産業を辞めるか、リファイン富山の名前だけはそのまま使ってもいいから、当社とは一切関係なしで続けるか、どちらかだ。1週間やるから返事をしなさい」
と伝えた。彼は余り事の重大さに気が付いていない様子で、わりと簡単に後者を選んだ。2年近く前のことである。今また、リファイン、と云う名称の意味を無 視し軌道から外れた方向へ行ってしまおうとしている。私は、彼に引導をわたす時期が来たと、ため息を吐いている所である。
そして、私はまだその時、山脇や井上常務の問題が起こるなどとは、夢にも思っていなかった。まさしく企業は、人間が織り成すドラマである。更に皮肉なこと に、井上常務も山脇もそして前述の和田君も全て、私が引き抜き、一時は信頼もし秘蔵子だった人物ばかりである。
自分自身の不徳の致す処と、少々自信を失いかけている今日この頃である。

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