或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第二部 ~豊かさと自由を求めて~


第二章 殿、ご乱心

私は部長以上を全員5階の会議室に緊急に集めて、
「私の事だから今後ありうる事かもしれないのでよく聞いていて欲しい。そしてもし私が今から話すような事と似たような事をしたり言ったら、必ず止めるよう に諌めて欲しい。その事が大事であればあるほど、極端に云えばあなた方の首をかけて、私に諫言して欲しい。その時私はきっと怒るだろう。おまえに何が解か るとか、生意気言うなとか、責任はわしが取るのだから口出しするなとか、言って聞かないと思う。それでもあなた方はどう見てもおかしいと信念を持ってそう 思うなら、命懸けで止めて欲しい。社員の事やその家族や下職の人やそのまた家族のことを真剣に思うなら、ぜひ私に忠告するよう、よーく頼んでおきます。私 はその時は頭にきて取り合わないだろうが、その後冷静になってきっとあなた方の事を思うであろう。気付くであろう。そしてあなた方の言う事が尤もだと悟っ たら、改めるであろう」と、前置きをして次のような事を話した。
ちょうど1年くらい前に、メーカーと言うよりメーカーの社長の取巻き連中が、大工工事の大いなる省人化になり、コストダウンにも繋がるという触れ込みで、 システム天井と云う部材を開発していた。ところが各協業会社には大変不評で殆ど採用されていない状態だった。何故かと云うと、先ず中央部分が撓んでしまっ て仕上がってからクロスを張ると、よく目立って何軒も張り直さなければならない現場が出てきたり、重くて人間一人の手に負えない位だったりして、要するに 現場を無視した商品だったのである。我々の専門用語で言えば'おさまり'が悪いのである。その採用率の悪いのを何かの会議で見つけて烈火の如く怒り、『こ れは一体どうなっているのか、このような良いものを使わないとはどういう事なのだ、何!協業会社がいくら言っても使わないって、よし分った、このシステム 天井を使わない所には一切他の部材も出すな、分ったな』と、まあこんな具合だったと想像できる。取巻きも取巻きで、『それは良い考えです』とか何とか言っ たに違いない。そうでなければごく普通に考えればそのような事が実際の現場で起こるはずがないのである。そうは思いませんか。
取巻きの取巻きはそれからが大変で、商品に欠陥があり現場では使いものにならない事くらいは分っている。かといって上司の命令には従わなければならない。 上層部のように使ってもらえないのなら他の部材も売りません、とはいくらなんでも協業会社に向かって言えないし、随分頭を悩ませたと思う。サンホーム兵庫 などは苦肉の策で、2階にトイレがある場合はその部分だけシステム天井を使うようにしたのだそうだ。まさしく『殿ご乱心』だと思うのは私だけだろうか?
先日(平成11年7月の初旬)、アポもなく突然メーカーの専務、正確には専務だった人がやって来た。先日の株主総会で無事責任を全うする事が出来、36年 間勤め上げる事が出来たというお礼と退任の挨拶に来られた。私はこの専務に対してどうしても忘れられない出来事がある。今日売り上げで頭を悩ませている最 大の原因をつくった人物である。思い起せば2年前、私はある団体の旅行で海外へ出かけていたのであるが、そこまで会社の経理担当者が電話をしてきたのであ る。その内容は、売り上げの訂正だった。
我々協業会社は、年に2回メーカーからの依頼を受けて、メーカーの監査法人がやってきて、微に入り細に入り調査を受け、監査をして頂く事になっている。勿 論そのどうみても高い監査費用は我々が何故か支払うのである。普通物事は依頼したものがその費用を払うのが当たり前だと思うのであるが、頼んでもいない し、歓迎もしないし、コスト(2日間経理担当者は勿論、私も拘束される。しかしながらこの旅行は以前からの約束で、断る事が出来なかったので、前もって メーカーの了解を得ていたが、結果的には私がその場にいなかった事が災いしてしまったのである)もかかるが、全て協業会社が負担する事になっている。
売り上げの訂正、つまり、3月期で完工したものはありのままに売り上げして下さい、というごく当たり前の指示だった。解かりやすく言うと、何を隠そう全て 私の指示で、売り上げの先送りをしていたのである。専門の公認会計士ならその位の事を見つけるのはいとも簡単である。私もそれは覚悟の上だった。会計士と してありのままを依頼主に報告するのはごく当たり前の事で、私も会計士に対して何一つ文句を言っているのではなくて、報告を受けたメーカーの責任者、即 ち、突然やって来た専務だった人に今も(平成11年7月)恨みを抱いている。私は実は執念深いのである。淡白そうに見えたり、お人好しに見えるが、その 根っこは大変しつこく、執念と言うよりもはや怨念に近いものが根底にある。だから読者も気をつけてもらいたい。最も私が大切に思い、どうしても譲れない事 を、邪魔されて思う通りにいかなかった時は、何年かかかっても邪魔をしたやつは絶対許さないし、必ず仕返しをする。
私は帰国してから専務に電話をして、事情を説明に行きますから会って下さい、とお願いをしたのに彼は取り合わなかった。小一時間ほど電話でやり取りをした が彼は正論で押し通した。あの時、彼は"北見さんがそこまでおっしゃるなら今回だけは目を瞑りましょう。来期からはちゃんと現実に沿った決算をして下さ い"と言うべきだった。当たり前の話だが私にはメーカーの人事権などはないが、私の煮えたぎる恨みが彼の退任を早めたと信じている。数え上げたらきりがな いが、これに近い事は多く実感している。最初にそれを意識したのは私が営業をしたお客様の中で、いろいろあって結果的に最終金が貰えなかった人がある。数 日後その人の家に泥棒が入ったのである。勿論入ったのは私ではない。
決算上の数字は以下の如くである。問題の平成8年18期は売上115億、利益8億、19期売上102億、利益4億2千万、20期売上87億、利益2億1千 万。私は今でも、この3期は売上101億、利益4億5千万だと思っている。私は、この3年間は売上げも利益も、消費税や様々な社会現象の流れで、伸びない 事が解かっていた。メーカーに盾付く気持など毛頭なかった。ただ安定した業績を残したかっただけのことである。税務署ならいざ知らず、ましてや粉飾してい るならともかく、たかが田舎の中小企業の小さな自己満足くらい見逃したって、大メーカーにとって針の穴ほどにもならない筈である。売上の先送りを見つけた 事を、鬼の首を取ったかの如く自分の手柄にしたのだった。私は許せなかった。がしかしメーカーを去った今は私の中で完全に過去の出来事になってしまった。
この際だからメーカーについてもう少し書き記し、それを最後にしようと思う。
思い起してみると、私は今までに6代のメーカーの社長とお付き合いをしてきた。大変口幅ったい言い方を許されるならば、もう一度会ってみたいと思う人は初 代の松田さんくらいだ。その他の人は出来れば御遠慮願いたい。それぞれに立派でその業績についても素晴らしく、第三者から見れば一流会社の社長で、何一つ 文句のつける所はない。但し私とは合わなかった。生きる姿勢が違うし価値観が余りにも違っていた。良い悪いではない。合う合わないの問題だった。見方によ れば私の我が侭だったかもしれない。他の協業会社の社長はきちんとお付き合いをしてきたのだから、私が異端者かもしれない。でも私は、良い人に巡り会った という感動はただの一度もなかった。寂しい限りだった。特に先代の社長就任の時(生まれて初めて就任祝いをした)取れたての鮎を早朝の魚市場で買い求め持 参して、私の熱い思いを聞いてもらった事がある。しかし彼は殆ど聞こうとしなかった。私は再び貝になる決心をした。その後彼は史上最速の一期でその椅子を 追われる事になった。現在の社長就任の時は、明珍火箸を持参した。多少の皮肉を込めてお持ちしたのだが、持って生まれたサービス精神を発揮し、またまた熱 き情熱をぶつけてしまった。この度は一応聞いてもらえた。が、1年経った今も私の期待している方向には程遠いものがある。『君の言う事は良く分るがその前 にしなれけばならない事が山ほどある。もう少し待ってくれ』とおっしゃられているのが聞こえてきそうである。今は貝になるのはもう少し後まわしにしようと 思っている。でもそんなには待てませんよ、と言っておきます。

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