或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第二部 ~豊かさと自由を求めて~


第二章 誰でも役員になれる会社

新光グループの役員会は、大体毎月10日前後にある。もう4年くらい前になると思うが、9月の役員会の席上で、当時まだ社長だった私の父が、
「この10月から鈴木を役員にするから」と、会も終わりに近づいた時を見計らうように言った。私は鈴木という男は、私の妹婿である代表取締役副社長高橋君 の茶坊主兼ドアボーイだと思っているから呆気に取られてしまった。酷いことを言うと思われるかもしれないが、エピソードを一つ紹介しよう。
新光建設グループには、新光会というゴルフコンペがある。前著の中でも触れているが、私達がゴルフをし始めた頃に作った会で、もう30年近い伝統あるコン ペになっており、回数も130回を越えていると思う。毎回欠席も角が立つので、2回に1回くらいは出席していた。たまたまその朝、高橋君と新光建設の駐車 場で顔を会わせた。彼が一緒に行かないかと言うので、断る理由もないので行くことになった。その時車の運転をしたのが鈴木だった。高橋君が車に乗る時も降 りる時もドアは鈴木が開け閉めをする。先ずそれにびっくりした。ゴルフ場までの車中、ずうっと鈴木は高橋君に対してお世辞の言いっぱなしだった。聞くに絶 えられなかった。我慢の小一時間だった。帰りは「ちょっと用事があるから」と、言って他の人に乗せてもらって帰った。私の知っている父は、こういう事が最 も嫌いな人だったはずであった。
勿論、私は通る筈もない反対をした。出席している者の代弁者のつもりで、
「彼はまだ入社して10年は愚か、6~7年でしょう。役員とは即ち取締役ですから、最低10年は必要だと思うのですが?」
すると高橋君が待ってましたとばかりに、
「サンホームの川上はまだ3年も経っていない」ときた。頭が良い、と私は感心した。
「成る程、川上は3年も経っていないかもしれないが、彼はメーカーからの出向も入れると12~3年にはなる」
「出向はあくまで出向であり、正式な社員年数には当てあまらない。」と言った。私の完全な負けである。同日、鈴木の他に2人の役員が誕生した。他の2人は 鈴木を役員にする為に、私とのバーター取引のようなものだったと、今でも思っている。それが証拠に2年後、鈴木は常務になり今日に至っている。もうそろそ ろ専務さんになられるかもしれない。私には殆ど関係ないことである。父は、「これで新光建設も上手くいく。サンホームも粟倉には悪いが、その後若手を抜擢 して役員にしたから活気が出て来て業績も良くなった。ぜひ頑張って欲しい」と、締めくくった。御満悦だった。私は猛然と腸が煮え繰り返った。いくら父親で も粟倉常務のことをそのような喩に出すことは許さないと、本気で憎く思った。
もうこれから新光建設のことは触れたくないので、続いてこの際だから今思っていることを書き記すことにする。
気になっていることの一つに『社員が増えない』と云うことがある。毎年定期採用の他に、中途採用も含めると6~7人くらいは入社しているようだが、またそ の位ずつ辞めているのも事実のようだ。ここ5~6年社員数は65~6人で推移している。その原因は多分に評価にある。人は誰でも誰かに評価、即ち良く見ら れたいと思っているものなのだ。かく云う私だってそうである。一寸前迄は、正直に言うと父親から評価を受けたいと思っていたし、株主や従業員からは当然良 い評価を受けたいと願っている。ましてや使われの身(実は本当の処私はその使われの身が腹から解らないのである。何故ってその経験がないからである。あく まで社員の気持ちは想像であり推測でしかあり得ないのである。この場を借りて謝っておきます。社員の皆さん、御免なさい)である。出来るだけ平等に且つ公 平に評価して欲しいと思っているのは当たり前のことである。その大事な評価がバラバラでは、意欲も段々萎えてしまうというものである。当社もそれまでの古 い人事評価システムを、502と称したプロジェクトチームを編成し、1年半くらいの時間をかけ、色々と紆余曲折の末、2年前に現在の人事評価システムを創 り上げ、それに基づいた評価をしているつもりだが、それでも大変難しくて、それぞれに於いては多分不満の残るところだと認識している。
私は本当のところ、人間が人間を評価するのは無理だと思っている。唯出来るとすれば、その人の行動や実績を含めた事実についてなら評価できると思う。その 人の考え方や生き様やましてや哲学などについては、他人がとやかく論ずる処ではない。しかしながら、とかく人間と云う生き物は、狭いキャパシティーや浅い 知恵でその逆をやりたがるものなのである。
話を新光建設に戻そう。先ずゼネコンと住宅部門の評価の基準を変えてやらないと、住宅部門に携わっている人間は精神的にもたないと思う。次いで評価システ ムを構築し、例えば評価項目を、目標と行動面と能力面の3つの分野に分け、こういう項目について評価するよ、と公にすべきである。それだけでも随分変わっ てくると思う。
目標の立て方についても大いに問題がある。お願いだから実現可能な目標にしてやって欲しい。社員旅行は毎年どんな形にせよ行かせてやって欲しい。それが駄 目なら誰もどこにも行くなと、言いたい。ボーナスは社員のボーナスを減らす前に、自分たちのボーナスを減らすべきである。もらえないことが判明している売 掛金は処分すべきである。でないと、粉飾になりますよ。兎に角普通の会社にして下さい。お願いします、と言うばかりである。

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