或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第二部 ~豊かさと自由を求めて~


第二章 少しの差は大きな違い

平成9年度の日本シリーズはブルーウエーブとヤクルトの対決だった。と同時に仰木監督と野村監督との戦いでもあった。平成7年秋の森さんと野村さんの知恵 比べも大変面白かったが、野村、仰木の戦いも興味を持って見ていた。結果は野村さんの圧勝に終わった。短期決戦の戦い方を知っているものと、そうでないも のの違いは歴然としていた。
目に見える範囲で言うなら、野村は常に最悪を想定し、第7戦までの投手のローテーションを組み、負け試合でも次につながる戦いをした。例えばこの投手は使 えるか、また使えなくてもこの打者には通用するとか、得意のID野球を現場において出来得る限り早く確認し、全知全能を駆使しただ一点、勝つ為に何をどう するかを考え、それを選手に繰り返し繰り返し言い続けたのである。具体的な事実として言うなら、イチローひとりに的を絞り、イチローを押さえる事に全神経 を集中させたのである。そして見事に押さえ、そうする事により相手チームの士気を低下させ、勝利を味方に呼び込んだのである。また、古田との呼吸も最高に 近い状態だった。強いチームには必ず名キャッチャーがいるものである。森、野村、上田、木俣、梨田、達川、伊東、古田、等々数え上げたらきりがない。そし てどうもキャッチャーは監督業に適しているようである。どこかの能天気なスーパースターの監督は、見るのには面白いかもしれないが、勝負には勝てない。彼 は打者とは打つものと思っている。ピッチャーとは押さえるものと思っている。しかし野村は、バッターとは打てないもので、投手は打たれるものだと思ってい る。だから野村は、こうしたら打てる、とかこの時はこの玉をねらったら打てる確率が高いとかを教えるのである。またバッテリーには、この状況下においては 絶対投げてはいけないコースや球種を、日ごろから何度も何度もくどいほど言い続けているのである。勝つというただ一つの目的の為にである。
我々が野村さんから学ぶ事は数多くある。彼は組織とは?とか、集団の持っている特性や、その集団がストレスを持ち始めると、どのような行動や態度を取るか などを、どうも知り尽くしているようだ。学問として学んだのか、長年の経験から学習したのか知らないが、組織理論や集団規範について熟知しているのは明白 である。彼は今年(平成11年)20年に一度しか優勝しない万年Bクラスのチームを指揮している。そしてなんと今は何年ぶりかに首位にいるではないか。阪 神ファンでなくともドキドキものである。彼は今年のキャンプが始まる前に、選手全員に'野村のメモ'と言う100ページに及ぶ書物を渡し、自分の野球に対 する考え方やノウハウを、徹底的に叩き込んだのだそうである。毎晩毎晩練習が終わってから1時間以上、ミーティングと称してその考え方や、人生について説 いたのである。野球とは?から入ったそうである。実は私も野村さんの勇気ある決断に多少心を動かされて、ある実に厄介な仕事を引き受けようかとも思った。 (この事についてはどこかの章で後述する機会があると思う)
ギャラリールネッサンススクエアの館長である池内先生が何年か前に、
「北見君、ここに2つの絵があるとしよう、殆ど優劣はつけがたいが、よく見るとAの作品の方がいい、その場合Aの作品とBの作品の差は見た以上の決定的な 差があるものだよ」とおっしゃったことがある。ブルーウエーブとヤクルトとの差、即ち仰木監督と野村監督の差は勝敗以上の差が合ったのは、衆知の認めると ころである。
昨今リーダーシップについて勘違いをしているものを多く見受ける。例えば分かりやすく当社のような、即ち住宅販売会社について記してみると、『営業は月当 り必ず1棟の受注を取りなさい。設計は正確にきれいに図面や仕様書を作成し、ミスのない積算や見積もりを出来るだけ早くお客さんに分かりやすくプレゼンし なさい。工事管理者は営業と設計とよくコミュニケーションをとり、お客様とも連絡を密にし工期通りにお引渡しをしなさい。もちろん現場は展示場でもありま すから掃除もきちんとしなくてはいけません。アフターサービスはこうこうです、総務は、経理は、人事は、云々』このような類の事を言ったり、させたりする 事が経営やリーダーシップだと思い込んでいる。
「えー、何処か間違っていますか?」とマジで解らない者は即辞表を書くか、トップの地位にあり辞表を受け取る立場にあるものは、お願いだから静かに去って 欲しい。少し前に東京にある企業の社長が、1億何がしかのコンサルタント料を支払ってある研修を導入したことがあった。本人も自慢そうにあちらこちらで 「これで会社も良くなる」と、吹聴して回ったそうであるが、その話を聞いたメーカーの幹部も『たいした人物だ。中々出来ない決断だ』と誉め、私の所へ来て もその話をしたので、私は『当然その社長はお辞めになったのでしょう』と言うと、宇宙人にでも会ったような顔をしていたのを今でも思い出す。誰が社長や! 社長とは?社長の仕事とは?と声をあらわ露に言いたい。
[べき論]で経営やリーダーシップが発揮できたら何一つ苦労は要らない。ましてや他人のコンサルタントにそれを任せるなどとは言語道断のことで、お話にも 何もならない。そもそもコンサルタントは利用(利用ではなくてせめて活用と言って下さい、とあるコンサルタントに言われたことがある)するものだと私は考 えている。そのくらいで丁度いい加減である。

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