或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第二部 ~豊かさと自由を求めて~


第二章 リゾートホテルを買っちゃった

私は自分の会社の応接間なのに監禁されているような気分になっていた。今朝の10時ごろから来た営業マンとその上司が動かないのである。もうかれこれ午後の2時を過ぎようとしているのにもかかわらずである。
2ヶ月くらい前に、或る人からの紹介ということで、私の所に電話がかかってきて、冷かし半分の気持ちで会ったのがきっかけで、とうとうリゾートマンション を買うか買わないか決断しなければならない羽目になってしまったのである。口汚い口調で断っても彼らは動こうとはせず、『買って貰えると信じています』の 一点張りで、もう何時間も同じことを繰り返していた。私の気持ちの中では、(もうそろそろリゾートマンションの一つくらい持っていても良いのではないか) と言う囁きと、(そんな贅沢な10年早いわ)と言う戒めの言葉とが交錯していたのは事実だった。その揺れ動く私の気持ちを彼らは彼ら独自の勘で察していた のであろう、立ち去る気配は一向になかった。
私は社内にいた幹部を2~3人別室に呼び、相談をした。「それくらい買って下さい。仕事の方は頑張りますから」と言ってくれた。すぐさま経理課長を呼び、 資金の確認をし小切手を切った。淡路のリゾートホテルだった。社員の結婚記念日とか、入社10年とかの記念日に無料で宿泊券をプレゼントしたり、私も 2~3回利用した。今(平成11年5月)現在は信州の蓼科のリゾートホテルと買い替えをし、この夏は一度行ってみようかと思っている。
私の中では分不相応だと思う気持ちと、何か後ろめたさも多少あって反省をしていた。メーカーから依頼されて年に2回ほど会計事務所が監査に来るのである が、その席上で、「こういう類のものを購入される時は、当社(メーカーのこと)の決済が必要なのですが当然して頂いたでしょうね」と言われた。
「勿論していません。ではメーカーがお金を出して頂けるのですか」と言うしかなかった。常識のない奴だと思われたであろうし、今もあいつは変わった奴でか たづけられているはずである。常識のない変な会社が、ここのところへきて多少なりとも注目され始めたのであるから、世の中皮肉なものである。
更に問いたい。メーカーは協業とは?一体どう定義をしているのか?そこのところが曖昧で、自分の方からしか見ていないから様々な矛盾が出てくるのである。 代理店なのか?販社なのか?下請けなのか?子会社なのか?お得意先なのか?パートナーなのか?運命共同体なのか?或いはそれ以外なのだったら何なのか?私 は良い悪いを言っているのではない、決めて欲しいと言っているのである。それによって随分対応も考え方も変わってくると言っているのである。根本的な問題 であり、企業の存亡をも覆す命題だと、私は思っているのである。今まで誰もが触れなかったが、でも大変重要な命題である。そうすればリゾートホテルを買う 時も、土地を買う時も、借入れをする時も、素直に決裁を仰ぐであろうし、或いはまた逆に私はこの会社を去っているかもしれないのである。それくらい重要だ と私は思っているのだが、現実は殆どの関係各位の方は余りそうは思っていないようである。
思い起してみると、私は6代ものメーカーの社長と少なからずお付き合いをしてきた。今まで、『うちは良い子にしていますからほっといて下さい。その代わり ご迷惑も心配もおかけしませんし、勿論人や物、金のご援助も要りません。無い物ねだりもしません』というスタンスで接してきた。いくら頭の悪い私でも、 メーカーと販社(一応分かりやすく当社のことをそうしておく)が、製販一体で事に当たった方が良いくらい百も承知である。今まではどうしても私の哲学と合 わなかったのである。生きる姿勢を曲げてまで媚び諂う事はないと、思っていたのである。私は私の最も嫌いな建前で、メーカーと付き合ってきたのである。そ れが唯一当社の生きる道だったのである。従業員や、協力会社やその人たちの家族を想う時、何処かの馬鹿殿みたいに松の廊下で刃傷にだけはおよぶまいと自分 を戒めてきたのである。
でもこの度だけは少しそのスタンスを変えてみようかと思い始めている。そうならなければメーカーも我々ももはや生き残れないと、本気で自覚しなければなら ない時に来ているのである。最近、メーカーの社員に冗談とも本気とも取れるように言っている。
「俺はメーカーと心中するのだけは嫌だ」と。

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