或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第二部 ~豊かさと自由を求めて~


第一章 私は課長になれないのですか?

事業計画をたてる時に、当たり前の事だが組織の改革や人事についても検討する。今期、すなわち平成10年の10月には大改革を行ったが(これについてはど こかの項目で詳しく記すつもりである)、それまでここ数年殆ど組織の改革も人事の刷新も行っていない。ただ昇進、昇格は毎年何人かはある。
サンホーム兵庫の平成6年当時の役職を思い出しながら記してみると、代表取締役社長(何故か非常勤)代表取締役副社長(何を隠そう北見俊介)常務取締役管 理本部長(井上)常務取締役事業本部長(粟倉)戸建第一事業部長(山脇)戸建第二事業部長(細田)サンライフ事業部長(川上)リフォーム事業部長(吉 岡)SP課、営業開発課だったように記憶している。そして、それぞれの事業部に営業課、工事課、設計課があった。
事業計画策定会議も1日目の午後3時頃だったと思う。お茶の時間だから多少賑やかなのかと思っていると、どうも様子が変なので私は部屋から出ていって、
「どうしたのだ」
と、近くにいた者に聞いてみると、木田係長と川上部長がもめているようだった。直接の上下関係がないのに妙だな、と思ったがどうも事実のようだった。事情を聞くために二人を私の部屋に呼んだ。川上部長は、
「副社長、いっぺん木田係長の話を聞いてやって下さい。私には何と言ったらいいかわかりません」と言った。
木田係長の言い分とはこうだった。自分と殆ど同じ時期に入社(彼らは中途採用組だった。この時期はもうほとんどが新卒者しか採用していなかったが、ほんの 数年前までは、つまり平成元年までは大学卒は我社を選んではくれず、もっぱら中途採用に頼っていた)したA君もB君も課長になって、何故私だけが課長にな れないのか!なるほど今は営業からはなれてスタッフ的な仕事をしているが、営業の第一線の時も実績は負けてはいなかった。どう考えても納得出来ない。と云 う事だった。それを比較的言いやすい元上司の川上部長にぶちまけていたのである。
「君を課長にしなかったのはこの私だ。それは何故かと云うと、君がSTM研修(前著のSTMで眼から鱗が落ちた、の項を参照)から帰ってきた時に面接をし ただろう?その時、君は百点満点の回答をしたので、私が最後にこんな質問をしたのを覚えているかね?『君は1週間のこの研修期間中に最も気になった人 は?』と尋ねた時、君は『副社長』と答えたね。『他には?』と聞くと『家族』と言った。『他には?』と更に聞いてもそれ以上君は答えなかったね。家族はま あいい。私を思い出してどうするのだ?その時君は、たった一人しかいない部下と上手くやれず、その部下を追いつめるだけ追いつめて、辞める寸前までいって いたじゃないか!その部下の顔が浮かばないっていうのは、どう考えても私には腑に落ちなくて、STM研修を全く理解していないのは勿論、私の経営理念とも 合わないと思って課長にしなかったのだ」
彼は無言で私の部屋を出ていった。それから1時間位たったであろうか、きまり悪そうな顔をして粟倉常務がやってきた。当然全ての人事は、井上常務と粟倉常 務と私の3人で行っていた。この事業計画策定会議の1週間前に3人で色々と昇格や昇進について話し合っていた時に、当然木田係長の事も話題に上った。粟倉 常務はかなり強引に木田係長を課長に推薦したが、私と井上常務は理由は違っていたが反対をして、今回は見送る事になったのである。粟倉常務は、木田係長を もう一度課長に考え直して貰えないか、と言った。
私はピーンときた。粟倉常務は木田係長に手形を切っている、と感じた。すぐさま井上常務を呼び相談した。井上常務は、副社長が良いのなら構わない、と言ってくれた。もう一度木田係長を呼び、
「俺は全く君の事は課長として認めていないが、1年かけて俺に認めさせてくれ。それが粟倉常務に対する君の恩返しになる」と伝えた。
本当に人事とは難しいものである。結果的に私は粟倉常務の顔をたてた人事をしてしまったのであるが、顔をたてる人事位やってはいけない人事はない。まして や昇進昇給に関する手形は絶対切ってはならない。もし切ってしまったらどんな事をしても落とさなければならない。これは私の知人が経営している企業に勤め ている従業員の兄から聞いた話であるが、会議で画期的なボーナスの査定方法を決め、当然知人である社長も了承した。にも係わらず、いざ支払う段になり算出 してみると、彼のキャパシティーを遥かに越えた金額になってしまったので、急遽前の方法に戻す、と言って支払わなかったのだそうである。風の便りでは、少 し業績も上向きになってきたと聞いて、喜んでいた矢先の出来事だった。
他人事ではない。これに類するような事を我々も知らず知らずに平気で行っているかも知れない。他人の振り観て我が振り直せ、である。なにせ能力とシステム はゼロにはならないが、意欲は或る日突然ゼロになってしまうのだから。

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