或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第一部 ~君は父親を越えられるか~


第三章 チラシはやめよう!

「これは一体どう云う事ですか?私は今期(平成4年)の方針発表会でも言ったでしょう。もうこんな限定チラシ(限定チラシとは、幾つかの住宅のプランを作 り、ある程度の目玉商品を決め、お客様には一見安く見える様にして、申し込み期限を設定し、お客様の気持ちを駆り立て、契約につなげる為のチラシ広告の事 である)は止めろと。お客様を扇動させるような広告は、本来の広告ではない。第一、こんなチラシでお客様が動く時代はもう終わっている。私は、今まであな たのやり方について、一度も文句を言った事はないでしょう。でも今回だけは認める訳にはいきません。即中止して下さい。えっ?もう印刷し終わっているっ て?構いません、ドブへでも何処にでも捨てればいい。メーカーとも話がついてしまっていて、どうにもならないって?近畿地区の幹部会での決議事項なので 引っ込みがつかない?困りましたね。それじゃ、営業の諸君に私の知らない事にしてもらって下さい。諄いようですが、これっきりにして下さいね。そんな事よ り、営業マンの足腰を鍛える研修でも考えたらどうですか?」
本当は、もっと汚い口調で、私は事業部を担当している粟倉常務を怒った。それっきり、当社では限定チラシに類する広告宣伝はしていない。その代わり私は、 新築完成現場の見学会を奨励している。全ての現場の見学会か、もしくはホームパーティをしなさいと言っている。と云うのは、これがCSに繋がるからであ る。お客様の家を2日間お借りして行う現場見学会は、お客様が満足していらっしゃらないのに、貸して下さる筈がない。自然にお客様の満足度が向上すると 思っている。
そんな事があってから、2~3ヶ月程してメーカーの営業企画担当が、粟倉常務に連れられて私の部屋にやってきた。30分位、その営業企画担当の話を聞い た。私は、「大変良い企画だと思いますが、当社には合わないので参加しません。きっと素晴らしい業績が上がると思いますが、うちは指をくわえて眺めておき ます。申し訳ありません」と丁重にお断りをした。企画担当は気抜けしたのか、呆気に取られたのか、何故参加しないのだろう?納得出来ない、といったような 顔つきをして、私を見つめた。企画担当の話の内容は、何処かの住宅メーカーの専売特許であるモデルハウスの売却キャンペーンだった。限定チラシより始末の 悪い代物である。7~8年前に一度当社独自で行ったことがある。その時私は、お客様を騙しているような、寂しい気持ちになった事を覚えている。確かに一時 的には、驚くほど契約は上がるが、決して長くは続かない。参加した協業会社は、こぞって普段の月の倍以上の契約をあげた。私は粟倉常務に、他社は他社、う ちはうち、関係ないから、と言った。1年経った今、粟倉常務はようやく実感できたようである。他社はまた売却キャンペーンをするそうである。これで1年 に、3度目か4度目である。モルヒネも、段々量を多く打たないと効き目がなくなる。メーカーが焚き付けたのだが、最近ではその収拾に頭を悩ましているよう だ。
私は、平成4年の10月から今年の3月まで、営業のマネージャークラスの研修を行った。続いて、同じ研修を今度は、一般の営業に4月から来年の3月まで、 マネージャークラスの倍の時間をかけて行っている。私は、社内研修を行う時は必ず同席する事にしている。だから研修日は1日潰れてしまう。しんどいがそう する事にしている。その方が研修効果が上がるからである。そして、期を見てアドバイスをする。講師と打合せをしながら進める。大変だが私の重要な業務だと 思っている。今行っている営業研修は、タイプ別カウンセリング営業研修である。耳慣れないプログラムだが、人間の本来持っている特性を、大きく4つのタイ プに分け、それぞれのタイプに応じたプロセスを踏みながら、クロージングにもって行こうと云うものである。
昨年の5月頃に、何かのきっかけでカウンセリング営業の本を読んだ。直ぐさま営業全員にその本を配り、レポートを提出させたが、半分以上の者が読んだ形跡 もなければ、理解もしていないのが解った。私は、この営業方法を確立すれば、必ずもっと楽に、もっと楽しく契約が上がると直感したのである。本を書いた著 者に連絡を取りお会いした。お会いして初めて知ったのだが、著者はほんの4年前まで、私供の住宅を扱っているメーカーに在職されていたのだった。話はトン トン拍子に進み、研修をして戴く事になったのである。講師は自分が纏め上げたこのタイプ別カウンセリング営業を、ご自信でどのくらい評価しておられるか解 らないが、私は、極端な言い方をすれば、これしかない、くらいに思っている。この営業方法は、人間の深層心理を奥深く突いているのである。どうしても確立 しなければならない営業方法である。
お蔭様で、ここ4ヶ月程契約は安定している。6月が6億5百万、7月は社内旅行(1班はタイのプーケット島、2班は北海道、何故違うかと云えば、個人に選 択させたのである。1人10万円は会社が負担しているが、それ以上は個人負担としている)があったにもかかわらず、9億5千万、8月は6億5千万、9月は 6億9千万、だった。なんとか7億が当たり前、と云う規範を創り上げたいと思っている。会社経営の一つに、規範創りがあると思う。出来るだけ多く、良い規 範を創るつもりでいる。粟倉常務も研修の重要性が腹で解ってきたようである。
また私は、住宅業界のアキレス腱は現場、特に大工職にあると思っている。我々がいくら口八丁手八丁で受注が上がったとしても、実際設計図と云う紙切れか ら、形を作り上げていくのは大工である。我々にはどうする事も出来ない。そこで、当社は4年以上も前から、社員大工制度を導入している。正社員として、あ らゆる身分も全く社員と同じ扱いにしている。中学卒や高校中退とか、お勉強が嫌いな若者を採用し、当社で長年仕事をしている大工に付け、覚えさせている。 徒弟制度が崩壊した今、企業がそれに代わる負担をしなければならない。会社としては5年程は注ぎ込むだけになるが、将来はきっと光輝く珠になると信じてい る。辛抱出来なくて辞めていった子もあったが、現在は6人勤めている。5年計画位で15人にはしたいと考えている。
私は、文字を書くのが嫌いである。字が人に見せられないほど下手だからだ。それでも毎月、契約をして頂いたお客様に、自筆でお礼状を書いている。また、営 業に報奨金を支給しているが、そのお祝いの封筒の中にも、私は1人ずつにコメントを書き同封している。この二つは、私にとっては[行]である。
細かな事かも知れないが、積み重ねが大切だと思っている。騙し的なチラシを打ち、普通の月の倍もの受注を上げる事も、一つの方法であるが、私のバリューに合わない。

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