或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第一部 ~君は父親を越えられるか~


第三章 受注残が減っていく

私は滅多に怒らない。だから、たまに怒るとよく効く。本当に怒っている、と思うからだろう。そこが私の付け目でもある。
毎月1回、7日前後に、経営検討会と云う会議を行う。部長以上は出席義務がある。最近は、部長の他に次長候補の課長を、事業部から1人ずつ出席させてい る。メーカーからも3名前後出席している。私は、出席を依頼した覚えはないが、どうやらメーカーの上層部の指示らしい。いつ頃から出席し始めたのか記憶に ないが、とにかく何人かは出席している。彼らの会議での発言は、毎回同じような内容である。私に多少は遠慮しているのかも知れない。私は会議が嫌いだ。私 が出席する会議は、この経営検討会議の他は、新光グループの取締役会だけである。会議など出来る限り無い方が良いと思っている。
平成3年9月の経営検討会議での席上だった。私は、机を叩いて喚き散らした。「一体お前らはどうなっているんや。7月、8月と時が経つほど、受注残が減っ ていくんか!ええ加減にせえ!お前等よってたかって会社を潰す気か!ひと月、ひと月、受注残が溜っていくのがほんまやろが!それがこのざまや。ええか、7 月の段階での受注残より8月では5,000万、先月から今月にかけて7,000万、合計ふた月で1億2,000万受注残が減っとんのじゃ。わかっとんの か!どういうこっちゃ。誰か説明出来るもんがおったら言うてみい。出来へんやろ。出来る訳がない。ええか、今月から、受注の計上の仕方を変える。先ず、契 約書の完全整備。契約金100万の入金。この二つのいずれが欠けても契約として認めん。契約として計上することは許さん。以上」
考えてみれば私の言ったことは至極当然の事である。隣で、事業部を担当している粟倉常務が「1ヶ月だけ待って欲しい」というような発言をした。私は「だめ だ。例えこの月が3棟でも4棟でもいい。ゼロでもいい。わしがいいと言っているのやから、いい。あんたもその方がやりやすいはずや」そう言って取り合わな かった。
私は、契約が曖昧に行われているのを、随分前から知っていた。受注の数字合わせをしている事は解っていた。いつ切り出すべきか、実はタイミングを計ってい たのである。今月は、数字の上でも、着工予定が大幅に狂い、受注残が減っていく過程は、誰が見ても明らかだった。私は、この期を逸してはならないと決心し た。実は、事前に心ある営業マン達に聞き取り調査をしていたのである。彼らは、私が考えている事を是非実行して貰いたい、それくらいの事で、契約が落ちた りしない、と言った。会議での幹部連中の完全な負けは、最初から決まっていたのだ。
私の予想通り、平成3年の9月を境に、受注も、着工も、当然売上も、私の嫌いな前年同期比と云う物差しで半期毎に見れば、2桁成長をしている。それにも増 して、近畿地区で一番?だったキャンセル率は、現在15%から3%にも満たない数字に減ってきている。メーカーからお誉めの言葉を戴いている、昨今であ る。
私は、何故前年同期比とか、シェアと云う言葉が嫌いかと云うと、どちらも、延長線上の発想から抜け切らない言葉だからである。私は、新しい期に向かって、 事業計画を立てる時、今期の数字がこうだから、来期の数字は何%アップのこれだけ、なんて考えたことがない。今期は今期。来期は来期である。来期の数字は まずこれだけ、と私が発表する。企業がそれぞれに欲しい数字をやればいいのである。結果、その数字が何%アップになっていようと、ダウンになっていよう と、良いではないかと考えるのだ。シェアもまた同じである。あくまでも結果としての[シェア]である。そもそも、住宅にかかわらず、シェアの計算なんてい い加減だと思っている。テレビ局の視聴率に似ている。要はやりたい数字だけやれば良いのだ。延長線上でしか物事を考えられないのは、経営者ではなく、せい ぜいマネージャークラスだと思っている。
また私は、仕事の成果は、能力×意欲×システムだと思っている。(実は、これは或るコンサルタント会社の主催する研修会で教えて貰ったのだが、もう既に私 の血となり肉となっているので、自分の物として使わせて戴いている。ご容赦あれ)要するに、掛け算なのがミソである。そしてその配分は、能力が40%、意 欲が40%、システムが20%である。能力とシステムは積み重ねれば、ゼロにはならないが、厄介なことに意欲は、或る日突然ゼロになる。家庭での出来事 や、健康状態や、職場におけるつまらない人間関係等で、ゼロになる可能性が大いにあるのだ。掛け算はゼロにいくら掛けてもゼロだから、故に仕事の成果はゼ ロになる。私達経営者と呼ばれている者は、常に最大の注意を払って、その意欲の部分を見つめておく必要があるのだ。そのために、人間とは、組織とは、を理 解する事が肝要である。しかし、これがなかなか難解な代物である。その時の環境とか、企業の成長過程によって違うからである。

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