或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第一部 ~君は父親を越えられるか~


第二章 インフィニティ様のお通り

メーカーが毎年1回主催する、TCC大会も終わり、私は、車で中国縦貫道路を西に向かって走っている。TCCとは、トータルコストコントロールの意味だそ うだ。つまり、メーカーの基本的な考え方を伝えるのが主な目的である。社長が全体の方向性を示し、営業担当の専務がシェアを主とした、営業政策を発表し、 商品担当の専務が今後の商品開発について話をした。それに倣って、それぞれの部署に関連している常務や部長が時間を気にしながら、何かを訴えていた。
文字通り、北は北海道、南は九州沖縄まで全国の協業会社が集まってくる。欠席は1社もない。我が社だけは毎年、私と社長である父の2人が出席する。他の会 社は1人だけである。我が社は特別なのである。或る時、他の会社の社長が、自分の会社の専務を連れてきたいと言ったが、ダメだったそうである。我が社を例 に出したらしいが、あそこは特別だと言って断られたと言っていた。決して我が社は業績は良い方ではない。売上も利益もおそらく全国で15~6位だと思う。 メーカーの尺度による査定では、何の取り柄もない会社なのである。しかし特別なのである。それは、私の父である社長個人に、特別なのである。それが証拠 に、私が出席した会議では、座る席は業績順(部材の買上)である。父が出席すると、いつも一番前である。私の推測に拠ると、あいつは(父のこと)五月蝿い からそうしておけ、と云う事になっていると思う。メーカーにそう思わすだけでも、父はたいしたものである。
TCC大会を終え、車は宝塚を過ぎ、名塩サービスエリアに差し掛かっていた。私の車の横を1台の軽自動車が追い越していった。私は、三車線の真ん中を走っ ていた。軽自動車は、追い越し車線を走っている。私は、アクセルを一杯踏み込んだ。しかし、軽自動車との距離は縮むどころか離されていく一方だった。私 は、ルームミラーで後方を見た。真っ黒な煙が、もんもんと上がっていた。この辺は軽い坂道が長く続いているのだ。この瞬間、車を買い替える決心をした。私 は、車について殆ど執着はない。パワーハンドルでオートマティックでパワーウィンドウで、少々大きければなんでも構わないタイプなのだ。でも今回だけは我 慢がならない、何故だか分からないが、そう思った。
考えてみれば、ディーゼル車に乗り始めて、もうかれこれ10年近くになる。よく辛抱したものだ。新光建設では常務クラスでも、ここ最近はガソリン車に乗っ ている。それに環境汚染にもなる、などと思いだすと、もう止まらない。
次の日、現場パトロール中に、運転をしていた社員に、車を替えようと思うのだが、何がいいかと尋ねたところ、インフィニティがいいです、と言った。パト ロールが終わり、会社に帰ってから早速知り合いの自動車屋に電話をし、そのインフィニティとやらを注文した。色はどの色が良いかと聞くので、白と、答え た。それでも気になり、会社の近くの販売店に行き、カタログを貰い、女子社員にどの色が良いか、さりげなく聞いてみた。トワイライトブルーしかないと言 う。私は慌てて自動車屋に、色の変更を伝えた。
私は、この車のスピードメーターは完全に壊れていると、思った。メーターは130キロを示しているのだが、せいぜい80か90キロくらいにしか感じないの である。私の車を追い越していく車は1台もない。やはり、メーターは確かなのだろうか?1週間経っても、1ヶ月しても、1年以上経過した今でも信じられな いのである。排気量が4,500ccだったことも、200馬力以上あることも、買い求めて初めて知った。値段も覚えていない。そんなには高くなかったと 思っている。そこのけ、そこのけ、インフィニティ様が通る。まるで水戸黄門の印籠の様な気分の1ヶ月間だった。名塩サービスエリア近所の坂道も、あったの かと云う程度である。
でも、今度買い替える時は、5ナンバーのマークⅡくらいにしようと反省している。軽はずみに私が調子に乗って、インフィニティなどにしたものだから、新光 建設の妹婿にあたる副社長を始め、当社の2人の常務も3ナンバーの車に替えてしまった。経営のトップたる者は、何事に於いても慎むべきだったのである。一 度開げた財布の紐は、なかなか閉まらないというが、私の場合は、こと車に関しては大丈夫である。なにせ、元来車には執着心がないタイプなのだから。

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