或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第一部 ~君は父親を越えられるか~


第二章 二足の草鞋は履けない

私は、友人の横田君と人材開発センターと云う会社を作っていた。将来自分の小遣い程度になれば良い、と云う軽い気持ちだった。何を目的にした会社だったか と言うと、人材派遣と企業内研修や講演を総合的にプロデュースするのが主な業務だった。格好良く言えばそうだが、事実は殆ど仕事らしい仕事はなかった。得 意先は、90%以上が私の関連している新光建設や、新光ロイヤル住宅だった。水口先生(後に詳しく述べることになると思うが、今でも私の心の師と仰いでい る方である)にお願いをして、潜在能力の開発訓練を行い、スプーンを曲げたり、名刺で割り箸を切ったりしていた。
ある洋菓子の会社の入社式を任されて、プロデュースしたのを、今でも覚えている。又小学生を対象にして、瀬戸内海の小さな無人島で能力開発の訓練をしたの も思い出として残っている。狙いは面白かったのだが、事務員を一人採用していたし、新光ロイヤル住宅の新社屋を創るときに、1階にギャラリーを提案してく れた谷口君を引き抜いて、実際の活動を任せていたので仕事量より経費の方がかさんでしまった。個人的に借入を起こして資金の手当てをしたが、結局は行き詰 まってしまった。現在は休眠会社にしている。この会社は、究極的には私の定年後のライフワークにしようと思っている。
また丁度この人材開発センターが行き詰まっていた頃、以前に関係していたコンピューターのソフト会社である、コスモ開発もおかしくなっていた。新光ロイヤ ル住宅に初めてコンピューターを導入する時に、当時はガソリンスタンドを5店舗程持っていて、早くにコンピューターを入れていた山根氏にコスモ開発を紹介 され、色々とアドバイスを受けたのがきっかけで、コスモ開発と関わるようになっていた。最初に紹介された時は、コスモ開発といっても法人ではなく女性ばか りが3人で、ソフトだけをつくっていた。
その内段々欲が出てきたのか、面白くなってきたのか、法人組織にしたいと云う事になり、山根氏や私達が発起人となって会社を設立したのである。社員も増 え、ソフトだけでは物足りなくなり、ハードにも手を出すようになった。良い人材が集らない、と言って事務所を駅前の一等地に変えた。納入先でトラブルが発 生し初め、お決まりのコースで資金ショートが生じた。その対策を、コスモ開発の女社長と山根氏と私で練ったが、どうしようもなく、債務超過による増資しか 手はなかった。その頃になると、山根氏は5店舗もあったガソリンスタンドを全て売却してしまっていて、新たに進学塾を経営していたが、現状は行き詰まって いたようだった。最終的には、山根氏は増資分の資金の手当てが出来ず、連絡してもなしの礫だった。断っておくが、女社長が飛び切りの美人だった訳ではない が(今も元気でやっているから見て頂ければ分かると思うが)乗り掛かった船で私が保証人になり、金融機関から借入をおこした。我が家の家訓を犯して、私は 保証判を押したのである。これが最初で最後だと言い聞かせながら保証人になった。
その後、コスモ開発はまた資金繰りが怪しくなった。そんな時、ある二部上場会社が多角化のためコンピューター部門の拡張を計っていて、コスモ開発に目を向 けたのである。コスモ開発はユーザーだけは非常に素晴らしい企業が多かったので、それに目を付けたのである。話はトントン拍子に進み、めでたく挙式の運び となった。私は、この時を逃してはコスモ開発に深入りするばかりになると思い、東奔西走し足元だけは見られないようにまとめ上げた。
私は、保証人になった頃一時コスモ開発の社長を兼ねていたが、今は単なる監査役である。女社長は、今も代表取締役専務として活躍中である。山根氏は進学塾 の方も、どうやら芳しくないようで、不動産屋のまね事のような事をして、一獲千金を夢見ているようだ。
一方、人材開発センターが行き詰まり休眠会社にする時に、わざわざ引き抜いてきていた谷口君の処遇だけは、きっちりしておかないと申し訳が立たないと思 い、我が社新光ロイヤル住宅に来るか、それとも以前から興味をそそっている様子だったコスモ開発に行くか尋ねたところ、谷口君はコスモ開発を選択した。そ の後、二部上場会社との婚姻も済ませ、営業部長として張り切って頑張っていたのだが、或るささいな事件をきっかけに退社していった。それから、一度も私は 会っていない。気になって一度電話をした事があるが、会いたくない様子だったので、私も無理に会おうとはしなかった。なんとかしたいと今も思っている。
私は、人間は同時に二つの事は出来ないと思う。充分に出来ないと、言った方が正確なのかも知れない。任す人を育成すれば幾らでも出来る、という人がいるか も知れないが、私は俗説だと思う。特に、経営と云う見地から判断をすれば、不可能だと云わざるを得ない。経営とは、そんなお遊びで出来るほど生易しいもの ではない。逆説的に云うならば、一つの事しか出来ないのである。もうひとつ、更に更に突っ込んで云うならば、ひとつのことなら何でも出来るという事であ る。但し、自分自身が本気で望み、心の底から願うならば、の話ではあるが。熱望と云う言葉があるが、まさしくそれであろう。

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