或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

或る二世経営者の挑戦


第一部 ~君は父親を越えられるか~


第一章 SMI研修

新光工事に呼び戻されてから、半年ほどで、業務は順調に軌道に乗り始めた。私は、暇を持て余し、JC(青年会議所)に入会したり、ゴルフに熱中していた。 そのJCの委員会の一つである、指導力開発委員会の委員長をしていた頃、委員会事業として、1泊2日の研修会を開催した。委員会のメンバーの紹介で、その 研修会に来て戴いた講師が、中野氏だったのである。
研修会もまずまず成功のうちに終わってから、数日が経過した頃、中野氏から私に電話があった。新光ロイヤル住宅に隣接しているホテルで会いたいとのこと だった。先日のお礼もあったので、それから2~3日後に会うことになった。中野氏は、ポケットからさいころの様な物を5個程取り出して、テーブルの上に転 がした。「北見さんこれは何だか解りますか?」私は解らなかったので、黙っていると、「このサイコロの様な物に矢印があるでしょう?何回振っても同じ方向 は向きませんね。失礼ですがおたくの会社は、全社員は無理かも知れませんが、少なくとも幹部クラスの人は同じ方向を向いていますか?一つ一つの矢印が思い 思いの方向ではパワーが出ませんよね。この矢印が一定の方向を向いたら素晴らしいと思いませんか?」
私は、決断をしかねた。誰かの同意が欲しかった。今までもそうだが、ある決断をする時、いつも必ずと言っていい程、井上常務に同意を求めてきた。最近で は、社展示場・FNA戦略・体感モデルハウス等々など…である。SMI研修について、私は熱っぽく語った。ポールジェイマイヤーの事、ワンセット80万円 もかかる費用の事、毎週1回の研修で、それがPM7:00~10:00に及ぶ事、全ての工程が終了するのに16週間を要する事、議事録を作成せねばならず 一字一句書き取るのだがそれが想像を絶する作業である事、自分だけでなく最初と最後には夫人同伴でなければならない事、余程の事が無い限り遅刻も欠席も許 されない事、1週間の行動を修得報告書に記入しなければならない事。
井上常務は、副社長が良いと思うならやったらいい、と言った。清水の舞台から飛び降りるとは正にこの事だった。800万円を支払い、研修の教材であるカ セットテープや書籍を10セット購入した。結局、第4グループ迄行い、40人の人間とその苦楽を分けあった。足掛け3年にも及ぶ、壮絶な戦いだった。私は その間一度も休まなかった。最終グループが終わる頃には、私は、もうSMIのプロになっていた。最終のレッスンが終わり、体験発表があるのだが、涙・涙で 声にならない者もいた。私も、もらい泣きをした。これで矢印が一定の方向を向いた、と強く強く確信をした。
私はメーカーの事例発表会でもこのSMI研修について、声高らかに喋った。しかし業績には一向に反映されてこなかった。そのうち、そのうちと思っている間 に、40人の受講生の中から、1人辞め、2人辞め、と退職者が出てきた。結局12人程が辞めてしまった、今、冷静になって振り返ってみると、SMI研修そ の物は素晴らしかった、と思っている。余りに個人の問題に触れる部分が多過ぎて、会社とリンクさせる事が出来なかったのかもしれない。もっと、露骨に企業 との関わりを示しても良かったのではないかと、反省している。もう一つは、要するに我が社と合わなかったのではないかと、思う。いくら良いことでも、合 う、合わないがある。企業を経営していく上で、これは正しいとか間違っているとか、良いとか悪いとかは存在せず、あるとすれば、合う、合わないかである、 と、最近やっと解りかけてきた。他の企業での成功事例が、そのまま我が社に当てはまるかとなると、答えはノーである。それぞれの企業には、歴史や風土があ り、トップの哲学や資質もある、物事、特に戦略においての判断基準は、合うか、合わないかで決断すれば、大きな間違いがないように思う。
今ひとつは、中野氏に人間的に多少欠落していた部分があったのかも知れない。と云うのは私は研修中も、研修が終わってからも中野氏に5社程紹介した。金額 に換算すると嫌らしい話だが、4,000万位にはなっている筈である。お礼は、菓子折を1回貰っただけである。又、中野氏の研修所を個人から法人組織にし たいので、出資して欲しいと依頼があったので、いくらか提供した。後に、これも1回だけ配当を戴いたが、それっきりになっている。勿論決算報告もない。私 を紹介した、JCメンバーのお父さんが亡くなられた時も、お通夜にも、葬式にも出席されなかった。そのお父さんが、この地域でSMIを広めた功労者だった にも関わらず。或るときゴルフを御一緒する機会があったが、マナーの悪さは筆舌に尽くし難い。1年に1回位電話がかかってくるが、内容はいつも紹介の依頼 である。
成功とは、価値ある目標を、前もって設定し、段階を追って、実現し続けること。
選択は全て自らがしている。

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